嶋田 純

2017年3月8日(水)に新たな企画として登場した『水文誌ミニ巡検』の第1回企画が香川大学の新見 治・特命教授のお世話で『讃岐平野・香東川流域の水文誌と水のエコミュージアム』というテーマの基に実施されました.香川地理学会からの2名の参加者もあり全国各地から参集した会員9名と共に総勢11名でジャンボタクシーを利用した丸一日の企画でした.
 瀬戸内気候の讃岐平野は,我が国の中では相対的に降水量の少ない地域で,ため池灌漑の盛んな地域として知られていることから,巡検参加前には,乏水地域であると私は捉えていました.巡検は,「少雨、溜池、渇水の讃岐平野」(その一部の香東川流域)を下流の高松の町から、中流の扇状地、上流の山地にさかのぼり、様々な地域事象・事物に出会うことを通して、讃岐平野の水の姿をリアルに描き出すように行程が構成され,過去数百年間の人間の営みによって讃岐平野が豊水地域に変貌していったことに気づかされるとともに,それを前提に生起する水の課題・問題を捉える視角の重要性を再確認することを狙いとした企画でした.現地の水利施設や郷土資料館等の見学を通して討議交流し、水文誌と水のエコミュージアムについての理解も深めるという,本巡検企画者である新見教授の狙いは十分達成されていました.
 午前中は3月上旬の小春日和を謳歌していましたが,当日午後は時折霙混じりの不安定な天候も加わりつつも,讃岐山地の峠を越えて香川用水の水源にもなっている吉野川に至り,潜水橋や藍染めの脇町などまで足を延ばすことができ何よりでした.一つの流域単位で,当該地域の水文環境と地域の経済活動を支える水の減災・防災や水利関連施策に係る結果を統合的に把握・考察する水文誌の重要性を改めて認識できる充実した企画でした.
 コース:(集合)JR髙松駅930-高松城下町水道-香東川-溜池-出水-讃岐うどん・のぶや(昼食・休憩)-香南歴史民俗郷土館―香東川取水堰-塩江・内場ダム-脇町・吉野川潜水橋-高松空港1700頃-JR髙松駅1730頃(解散)
 当日の概略行程は上記の通りで,解散後に一部参加者による懇親会および瀬戸大橋横断と岡山市散策(翌日)が実施されました.これらの遂行においても,新見教授のお世話を賜りました.多忙な中での企画実施に厚く御礼申し上げます.
 本学会設立時の会長巻頭言(山本,1987)では,『ハイドロロジー・水文学の定義に関しては,世界中が共通の認識に達していると考えて良く,水文科学となるとより広い範囲をカバーすることになります.理論と応用,自然科学のみならず社会経済学の分野,そして”水を媒体として地域を理解するための水文誌”等が含まれる.』とされて学会30周年の今日に至っていますが,これまでの学会活動(主に学会誌)を振り返ると(森,2017), 水文誌はその重要性が認識されているものの成果としては目立った存在にはなりきっていないのが現状です.我が国の他学会同様に会員数が減少しつつある本学会において,新たな切り札として,この『水文誌』に着目することで,流域を地域単位としてとらえる水文(科)学および本学会の特徴を生かし,新たな方向性を導き出す動機づけに出来ればと考えています.

写真1. 脇町の古井戸前にてミニ巡検参加者と共に

尚,次回第2回企画は,参加者の中に居られた元神奈川県温泉地学研究所の大山正雄氏のお世話で,箱根方面でのミニ巡検を来年(2018年)2-3月頃に実施する予定です.今秋発刊予定の学会誌および学会HP等に募集公告を載せる予定ですので,多くの会員諸氏の参加をお待ちしています.
参考文献
森 和紀(2017)水文科学:基礎科学として水文学.日本水文科学会誌,47(1).17-21.
山本荘毅(1987)日本水文科学会の設立にあたって.ハイドロロジー,17(1), 1.