(案内人・世話人)嶋田 純
町田 功・嶋田 純

皆さん、お元気ですか、企画・広報委員長の町田です。すっかり定番となった本企画、今回は、満を持して前会長の嶋田先生が案内人として登場。巡検の舞台はもちろん水の都・熊本です。開催日は2019年7月12日、梅雨の間の開催ということもありましたが好天に恵まれました。さて、定刻に参加者総勢22名が揃いました。いざ出発です! 

写真1 バスの中はこんな感じ。最後部の座席から写真をとりました。約30人乗りのバスです。私は隣に座った新見先生(香川大学:第1回水文誌ミニ巡検(2016年度開催))とおしゃべりをしながら、巡検を楽しみました。

さて、バスから農業用のダムが見えてきました。ダムにゴムシートが貼られているようですが、それは地下水面がダム底よりも深い位置にある上に、本地域の地質の透水性が高いので漏水してしまうため、ということでした。さらに進むと、空港の傍の浸透池にて停車しました(写真2)。空港で降った雨がここに導水され洪水後の出水を浸透させる算段です。洪水防止と涵養、両面を見込んでいます。肥田先生(元秋田大学)のお話ですと、こういった涵養池はドイツの空港にもあるそうです。10時、空港を後にして次の地点へ向かいます。

写真2 空港近傍の浸透池

次の見学地点は馬場楠井手の鼻ぐりです。ばばぐすいでのはなぐり、と読みます。井手というのは灌漑用水路のことで、鼻ぐりとは(牛の)鼻輪のことのようです。まあ、まずは写真3をご覧ください。非常に奇妙な建造物で、加藤清正の肥後統治時代に築造されたと言われています。岩山を部分的に切り取り、板状になっているように見えますが、実際は写真4のように穴が開いていて、川の水がこの中を通る構造になっています。これにより、川にたまった土砂を排出することができるそうです。詳細な解説は鼻ぐり井手公園の南部町民センターにて入手できるパンフレットをご覧ください。

写真3 鼻ぐり井手
写真4 鼻ぐり井手の模型と石井先生
写真5 白川中流域

ここからバスは、白川の上流に向かって進んでいきます。徐々に、阿蘇の外輪山が見えてきました。上井手用水と下井手用水の取入れ口に向かっています。白川には2つの主たる灌漑用水路があり、上流側で取水した用水を上井手、下流側で取水した用水を下井手といいます。写真6の看板は、上井手用水に水が流れているところです(取水口はここよりも上流側にあります)。かなり水量が多いです。この看板から少し歩くと、下井手用水の取り入れ堰が見学できます(写真7)。

写真6 上井手用水
写真7 下井手用水

11時30分、上井手の取水口に到着しました(写真8)。写真6にあった上井手用水の取水堰です。ここで集合写真を撮りました(このときの写真がHPのトップページにて掲載されています)。

 写真8 上井手用水の取り入れ口付近

次の見学場所は本日のメインイベント(?)立野ダムです。写真9のように、大規模な工事が行われており、黄色と青いショベルカーがいるところが、ダムの軸になる所だそうです。高さは約90m、ダムの一番高い所の対岸から手前までは約200mです。 このダムの構造は大変興味深いので少し詳細に報告します。完成時のダムには直径約5mの穴が3つ設けられるそうです。通常時、川の水はこの3つの穴のうちの河床と同じ高さにある一番下の穴を通って下流に流れます。洪水時には、上流から大量の水が流れてきて、(少し高いところにある)他の穴にも水が通るようになります。水量が多くなると、下流にもそれに応じた水量の水が流れていくのですが、この構造によってピーク流量を抑えることができます。通常、ダムは上流の雨量データを基にして排水ゲートの操作をするのですが、このダムは阿蘇カルデラの出口(おたまじゃくしの尾の部分と表現されていました)にあたっているため、上流部で雨が降ると河川の水位が短時間で一気に上昇します。そのため雨量を観測して、そこから予想流量を計算して、ゲートの開け閉めを行う、という作業では時間がかかりすぎてしまうとのことでした。

写真9 立野ダム。左側に青いショベルカーがみえるでしょうか。
写真10 国土交通省立野ダム工事事務所の阿部所長さんが説明してくれました。

立野ダムを後にして阿蘇カルデラの中に入っていきます(写真11)。このあと、お昼になり、外輪山入り口にある阿蘇東急ゴルフクラブで立野ダムカレーを食べたのですが・・・すみません!食べることに夢中で写真を撮り忘れました。立野ダムカレーは(ダム建造のために頻繁に訪れていた)国交省の方から提案をされてメニューを作ったとのことです。外輪山の入り口は風が吹いていてとても気持ちがよかったです。ここからは、熊本地震で崩壊した瀬田裏斜面の復旧状況や地震で崩落した阿蘇大橋の付け替え工事御状況を一望できました。

写真11 阿蘇カルデラ外輪山から中央火口丘を遠望した様子。広い阿蘇谷カルデラ!

お腹も満腹になり、再スタートです。後半戦最初の見学地点は、塩井社神社の湧水です。時間は14時50分です。去年の10月ごろに来たときは2年振りに湧水が戻っていたそうですが、今はまた湧出が止まって濁っています。この湧水は地震直後に枯渇してしまって、今は次第に元に戻りつつあるようです。同様の現象が、この辺でいくつかの地域で生じているそうです。なお、この後の8月6日に嶋田先生から湧水が回復したとの連絡がありました。

写真12 塩井社神社の湧水。本来は透明な流水がみられますが、訪問時は湧出量が少なく、濁っていました。

16時40分。最後の見学地点となる阿蘇神社とその門前町にある自噴井戸を活用した水基巡りの商店街に到着です(写真13)。阿蘇神社では先日の熊本地震で倒壊した建物の写真等が展示されていました。水基巡りの門前町では風情のある町の中で、とても冷たい地下水に触れることができます。参加者の皆さんは、アイスクリームなどを食べつつ、ゆっくりと町中を散策していました。
さて、そろそろ巡検も終わりに近づいてきました。帰路は昔、加藤清正が参勤交代で使っていた道だそうです。外輪山の峠を超えて熊本市内に向かって下っていきます。嶋田先生、みなさん、お疲れ様でした!

 写真13 阿蘇カルデラ内にある阿蘇神社周辺の水基巡り商店街。少し昭和の感じがする落ち着いた街並みが魅力です。

—過去のミニ巡検詳細—
第3回水文誌ミニ巡検(2018年度開催)
第2回水文誌ミニ巡検(2017年度開催)
第1回水文誌ミニ巡検(2016年度開催)